東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)17号 判決
事実及び理由
審決取消事由の存否について判断する。
(原告主張の審決取消事由1について)
原告は、第二引用例のものは、石綿セメントのフレキシブルシート二枚を表面材とし、これらを立てた間に発泡性コンクリートを流し込んで発泡させて形成させたガスコン層を芯材とするサンドウイツチ構造のものであるところ、このガスコンは、本願考案のALCとは全く異なり、甚だもろく、石綿セメントのフレキシブルシートに挟持されてはじめて「板」の一部となつているものであつて、ガスコンのみに金網を埋設しても「板」機能を備えることは不可能であるが、本願考案はメタルラスを埋設することによつて十分に板機能を発揮するALCを主材とするものであるから、第二引用例と本願考案とは技術的に何の関連性もないにかかわらず、審決はこの第二引用例の金網入りサンドウイツチインシユライト板を、補強材と「補強材を除いたその余の部分」という構成で把握し、後者を「主体」として、本願考案の耐火被覆板と対比し、第二引用例の「主体」をALCのみで構成することが容易に考案できたものであるとしたものであつて、審決の右判断は第二引用例の構成の把握の誤り並びにそれと本願考案との対比の誤りを犯すものである旨主張する。
なるほど第二引用例(成立について争いのない甲第二号証)には、右引用例記載のサンドウイツチインシユライトで使用されるガスコンはもろく、崩れによる表面材のふくれなどの関係からサンドウイツチインシユライトをカーテンウオールとして使用する場合にはその厚さに自ら限度があるが、このガスコンのもろさを補強する意味で亀甲金網等を入れたサンドウイツチインシユライトを試作した旨の記載がある(第四八頁左欄)。しかしながら審決(成立について争いのない甲第三号証)は、建築用の非耐力材、非構造材の主体を本願考案におけるようなALCのみで構成することは本願出願前周知であり(右事実は、審決の引用する「コンクリート工学ハンドブツク」第五九四頁ないし第五九七頁―成立について争いのない乙第三号証―によりこれを認めることができる。)、かつ、第一引用例(成立について争いのない甲第一号証)にはALC板にワイヤーラスを埋設したものが記載されているから、これらの事実をもつて、本願考案の耐火被覆板の主体を、ガスコンの両面に石綿セメントのフレキシブルシートを積層した第二引用例のものと異なつて、ALCのみで構成することは予測可能であると認定したものであること、並びに審決が第二引用例を引用したのは、右引用例にはガスコンの中に亀甲金網のような金網を埋設したものが示されていることを理由としたものであることは、審決の判文自体から明らかである。したがつて、第二引用例におけるガスコンと本願考案のALCとに原告主張のような差異があるとしても、審決が第二引用例を引いてこれと本願発明を対比したことに何らの違法もない。
なお原告は、第二引用例と本願考案とは技術的に何の関連性もないというが、本願考案の明細書には、耐火被覆板の従来例として「気泡コンクリート(本判決注・ガスコン)等の軽量材を芯材として使用し、表面にフレキシブルボード等の引張り強度がある被覆材を貼り合せたもの」が挙げられていることが認められる(成立について争いのない甲第四号証の一―実用新案公報―第一欄第二五行ないし第三二行)から、本願考案の考案者自身第二引用例のものは、耐火被覆板に関する従来技術の一つであつて、本願考案と関連性をもつていることを認識していたものというべきであり、右事実をもつてしても、第二引用例が本願考案と技術的に何の関連性もないということはできない。
(審決取消事由2について)
原告は、審決の「主体をALCのみの構成にすることは予測できることである」との判断は誤りであると主張する。
しかしながら、前説明のように、建築用の非耐力材、非構造材の主体をALCのみで構成することは、本願考案の出願前に周知であり(乙第三号証)、また、第一引用例(第二八九頁)には、ALC板にワイヤーラスを埋設したものが記載されていると認められるから、審決はこのことを理由として「主体をALCのみの構成にすることは予測できる」としたものであつて、審決の右判断には誤りはない。
この点に関し、原告は、第一引用例には、審決のいう「ALC板にワイヤーラスを埋設したもの(第二八九頁下図参照)」は記載されておらず、同図中「ALC版軽質ワイヤーラス補強」とある部の引出線の矢印の位置及び同図が「超高層建築物の計画標準に関する研究」(第一引用例は同書の一部)中、「工法」の節にあることから、右引出線の部分の説明は、ALCパネルの表面を施行現場においてワイヤーラスで補強せよという意味の仕様説明であり、これを審決のいうように、ALC板にワイヤーラスを埋設したものと解釈すべきではないとの趣旨を主張する。
しかしながら、右図面には、ALC板の断面図にその断面内部に表面の実線と平行に引かれた鎖線が示され、同所のALC板表面位置より引出線が引かれ、同引出線上に「ALC版軽質ワイヤーラス補強」と説明がしてあるから、このことと建築用の非耐力材を金網等で補強するには金網等を「埋設」するのが普通の態様であると認められることを考えると、右図面には、「ALC板にワイヤーラスを埋設したもの」が記載されているということができる。原告の主張は理由がない。
原告は、また、審決は第一引用例に「板厚五〇mmのALC板にワイヤーラスを施して補強すること」が記載されているというが、第一引用例にはそのような記載はないと主張する。
しかしながら、第一引用例の第二七四頁には、ALC系材料について、版厚五cm程度では版下部に亀裂発生の恐れがあり、版下部のみワイヤーラス補強を行ない、亀裂が入つても版がこわれることを防止するという考え方もある旨の記載のあることが認められ、第一引用例には、ALC板の一部分についてではあるが、「板厚五〇mmのALC板にワイヤーラスを施して補強する」との技術思想は表わされているとみることができる。この点に関する原告の主張も理由がない。
(審決取消事由3について)
原告は、本願考案の出願前のALC板が板厚七五mm以上であり、鉄筋(五mm径以上)補強されたものに限られていたことを主たる理由として、主体をALCのみの構成にしたことによる本願考案の効果、すなわち、軽量、切断容易、釘打ち効果について、予測できる程度であるとした審決の認定を争つている。なるほど、本願考案の明細書(成立について争いのない甲第四号証の一、二―本願考案の実用新案公報及び昭和五二年一〇月一七日付手続補正書―参照)には、従来の軽量気泡コンクリート板は厚さ七五mm以上鉄筋五mm径以上であり、これを単に薄くしただけでは耐衝撃性がないが、本願考案はこの問題点を解決すべく案出されたもので、ALCに所定の金網を挿入し、軽量で耐衝撃性を有し、簡単な工程で大量生産を可能ならしめ、かつ安価な耐火被覆板を得ることに成功したものである旨の記載があることが認められる。しかしながら、建築用の非耐力材、非構造材の主体をALCのみで構成することが周知であり(乙第三号証)、かつその板厚を五〇mmとすることも公知である(第一引用例第二七三、第二七四頁、第二九〇頁)と認められる点よりすれば、本願考案の耐火被覆板は単に右周知のALCの板厚を二〇mmないし五〇mmとし、その中にメタルラスを埋設したにすぎないものであつて、その考案は右周知例及び第一、第二引用例から当業者が極めて容易に考案することができたものと認めるべきで、審決の趣旨もそこにあるものということができるところ、ALC板を本願考案のごとく、従来の厚さであると原告が主張するもの(七五mm以上)よりも薄くすれば、原告が主張するような効果が、従前のものに比べて、発生するものであることは当然で、それは本願考案がそのような構成を採つたことから当然に生ずるものであつて、格別のものということはできない。審決が主体をALCのみの構成にすることの効果についても予測できる程度のことであつて格別顕著な点は認められないとしたことに誤りはない。
(審決取消事由4について)
本願考案の耐火被覆板は、<1>板厚が二〇mmないし五〇mmのALCと、<2>その中に埋設した目の大きさ一〇mmないし五〇mm、重量〇・三kg/m2ないし一・五kg/m2のメタルラスからなるものであるところ、原告が主張するその構成及び作用効果すなわち、「本願考案は、板厚五〇mm以下のALC板に特定のメタルラスを埋設したという新規な構成をとることにより、薄板でも板機能を備えていて、かつ、現場加工及び現場取付け作業が容易であるという新規なALC建築材料を創出した」との点は、前記2及び3で述べたところから明らかなように、周知技術及び第一、第二引用例の記載から当業者の予測しうる程度のことであつて、格別なものはないというべきである(本願考案の前記<1>、<2>の構成の結びつきについても格別のものがないことは、審決のいうとおりであると認められる。)。
そうであれば、本願考案の全体としての構成及び作用効果について予測しえないとする原告の主張は採用できない。
右のとおりであり、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
ALCとその中に埋設したメタルラスとよりなり、前記ALCを板厚二〇mmないし五〇mm、前記メタルラスの目の大きさ一〇mmないし五〇mm、重量〇・三kg/m2ないし一・五kg/m2としたことを特徴とする耐火被覆板。